2015-09-03 最終更新
病徴:
ゲッキツの小枝に点々と黒色のゴール(こぶ)ができる.こぶは大きさ約5mmで,柔らかい.こぶの表面は小さい黒色のいぼ状隆起(病原菌の子のう殻)におおわれる.本病とその病原菌は南西諸島のうち奄美諸島においてゲッキツに発生している日本固有種である.
病原:
Hypocrella murrayae Tak.Kobayashi
〔不完全世代Aschersonia murrayae Tak.Kobayashi〕
子のう菌類肉座菌目に属する.球形のこぶ状の子座が葉や緑色茎に形成されるが,それらは普通は空か未熟の子のう殻である.3か月ごとに標本を採取して調べた結果,6月に採取された病害試料が成熟した子のう殻と分生子殻を有していた.
黄橙色の球形の子座が生葉と緑色茎とに形成されていて,成熟した子座は橙褐色から褐色に変わり表面が滑らかになった.ついで子座の表面はやや粗面となり灰白色の粉におおわれる.最後に子座は上部からしだいに崩壊し,ついには基部のみを残すに至る.そして不規則な形をした灰褐斑が子座の周りに現れてくる.
葉と茎には多くの子座が形成され枯死するが,太枝はたくさんの子座を形成されても生き残る.
子座の内部は黄色~黄橙色で菌核様構造でtextra epidermoidea(表皮細胞様構造).子座の表面部分はやや濃色で細胞壁は厚い.子のう殻と分生子殻は子座の表層部に一層になって形成される.子のう殻はフラスコ形で長頸を有する.子のう殻壁は扁平で薄壁の数細胞の層より成り,周りの子座組織とはあきらかに異なる構造をもつ.子のうは長円筒形,大きさ120~150×6.5~10μm,無色,頂部を除いては薄壁,頂部には不明瞭な孔口があるがメルツアー試薬には反応しない.子のう胞子は細長い円筒状,多隔壁で,分節して子のう内は無数の分節子のう胞子(5~7.5×1.8~2μm)で充満する.
伝染:
詳細は不明だが,雨後子のう殻頂部より溢出した子のうが雨のしぶきで子のう胞子もろとも飛散する(雨媒伝染).アリなどの小動物の体表に付着しての伝播(虫媒伝染)もあると思われる.
(2012.4.5 小林享夫)