2015-07-15 最終更新
病徴:
クサヨシは全国に分布し,ほとんどの群落で本病が激発する.罹病穂は6月上旬に蜜滴を露状に分泌し,のち白濁,乾固して下旬には麦角が穎外に現れる.7月には黒色円筒形に伸長し,激発した穂には170個以上の麦角を形成する.クサヨシのほかシマクサヨシにも発生し,その病徴も酷似するが発生は劣る.
病原:
(1)Claviceps purpurea(Fries)Tulasne var.phalaridis Tanda
(2)C.purpurea var.alopecuri Tanda 〔異名C.microcephala(Wallroth)Tulasne〕
子のう菌類に属し,分生子と子のう胞子を形成する.分生子は無色,単細胞,楕円形か卵形で多くの発生地の菌株は大型で,個体群の平均値は9.4~10.3×3.7~4.3μmであるが(1菌),小型の菌(2菌)は7.8×3.6μmで,容易に識別できる.これらの麦角はよく類似し,扁平な円筒形で長いものは湾曲し,黒色か黒紫色で,ごくまれに灰白色のアルビノを混在する.大きさは2.2~15.4×0.5~1.5mmである.麦角総アルカロイド含量は高く,ergotamine他多数の有効成分を含む.子座は4月上旬より発生し,麦角あたり1~4本,まれに11本形成,半月後には子のう胞子を飛散する.子座柄は淡赤色か赤橙色で線状,直立か湾曲~屈曲し,大きさ2~13×0.1~0.9mmで頂端に頭部を形成する.子座頭は扁球形~球形で淡赤紫色,径0.2~1.9mmあり全面に子のう殻を埋生する.子のう殻は倒洋梨形か卵形で,口部が尖り,大きさ140~267×70~186μmで,細円筒形,大きさ74~151×1.8~4.2μmの子のうを多数内生する.子のう胞子は子のうに8本配列し,無色,線状で単細胞,長さ72~137μmである.これらの菌の分生子以外の諸特徴は相互によく類似する.クサヨシ麦角病菌はC.microcephalaとされることもあるが,本来ヨシ類に発生する同菌は夏に子座を生じ秋に麦角を形成するので,初夏に発生するクサヨシ類の菌とは生態的にも明らかに類別される.
伝染:
麦角は4月初旬より子座を生じ,下旬には子のう胞子を飛散する.またクサヨシは5月より開花するので一次伝染は早く出穂した小花で起こり,分泌した蜜滴が虫媒や雨水で遅れて開いた花や他のイネ科植物に拡散する.国内ではハーデンググラスにも発生する.
(2012.3.27 丹田誠之助)