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アザミ類うどんこ病

Powdery mildew

2015-07-15 最終更新

病徴:
① アズマヤマアザミ
② カガノアザミ
③ トネアザミ
④ ノアザミ
⑤ ノハラアザミ
⑥ ヒメアザミ
⑦ ミネアザミ
⑧ ヤマアザミ
⑨ ヨシノアザミ
9種のアザミ類上の病徴や発生部位はいずれもよく類似し,肉眼的な判別はむずかしい.激発すると茎と葉の両面に発生し,不整形で周縁が不明瞭なうすい白色~灰白色の菌叢を生じ,多くは全面に広がるが,普通葉上面と茎で目立ち,下面の菌叢は消失しやすい.秋季に病斑部全体に閉子のう殻を黒点状に散生するが,罹病葉の褐変や枯死はみられない.

病原:
(1) Podosphaera fusca(Fries)U.Braun & N.Shiskkoff
(2) Golovinomyuces cichoracearum(de Candolle)Geljuta
(3) Erysiphe mayorii Blumer var.japonica Braun & Nomura
それぞれ子のう菌類に属し,分生子と子のう胞子を形成する.(1)は②③⑤⑦に,(2)は①③⑤⑨に,(3)は①③④⑥⑧に発生する.各菌の分生子柄は病斑上のほふく菌糸体より分岐直立し,真直か湾曲し,頂部に(1)と(2)は連生,(3)は単生する.3菌の各部の大きさと形成数は宿主間に若干の差はみられるが形態的にはよく共通するので,以下の特徴は菌別にまとめて記載する.
(1)の分生子柄は1~3細胞よりなり,脚胞は円筒形で,大きさ25~60×9~12μm,分生子は楕円形か卵形でフィブロシン体と大形の液胞を含み,大きさ25~39×15~22μmである.閉子のう殻は黒褐色,球形か類球形で,径68~107μm,壁細胞は不規則多角形で大きく,大きさ18~64×14~40μm,下部に4~10本の付属糸を束生し,1個の子のうを内生する.付属糸は菌糸状で,湾曲か屈曲し,長いものは多くが真直で,しばしば分岐し,無隔壁か1~7隔壁を有し,全体か基部に向かって暗褐色を呈し,長さ115~570μm,基部近くの幅が4.5~7.5μmである.子のうは広卵形か楕円形,しばしば類球形で,無柄,大きさ53~89×46~71μmあり,(6~)7~8個 の子のう胞子を内生する.子のう胞子は楕円形か卵形,類球形で大きさ13~30×12~23μmである.
(2)の分生子柄は2~3(~4)細胞よりなり,脚胞は円筒形で,大きさ24~119×9~15μm,分生子は楕円形~長楕円形,円筒形,類球形で,大小の液胞を含むが,フィブロシン体は欠き,大きさ23~50×14~23μmである.閉子のう殻は黒褐色,類球形か扁球形で,径82~132μm,5~16個の子のうを内生し,壁細胞は不規則多角形で,大きさ11~25×7~18μmである.付属糸は閉子のう殻の中央より下方に多数形成し,菌糸状で菌叢にからみ,淡褐色か無色で,基部が濃く,単条で,無隔壁か1,2 隔壁を有し,長さ107~377μm,基部近くの幅が6~8μmである.子のうは楕円形か卵形で有柄,大きさ46~82×25~50μmあり,多くは2個,まれに3個の子のう胞子を内生する.子のう胞子は淡黄色で,顆粒状,広楕円形か卵形で大きさ17~36×11~22μmである.
(3)の分生子柄は2~3 細胞からなり,脚胞は円筒形で,大きさ35~63×9~13μmである.分生子は楕円形か卵形で,大小の液胞を含み,大きさ28~45×15~20μmである.閉子のう殻は黒褐色,球形か扁球形で径85~142μm,壁細胞は不規則多角形で,大きさ7~22×4~14μm,中央より下方に21~70本の付属糸を周生し,5~16 個の子のうを内生する.付属糸は菌糸状で,全体が暗褐色を呈し,不規則に数回分岐,屈曲し,しばしば単条,無隔壁か多くは数個の隔壁を有し,長さ18~130μm,基部近くの幅が 4~6μmである.子のうは広楕円形,類球形か卵形で短柄を有し,大きさ43~78×21~47μm,4~8個の子のう胞子を内生する.子のう胞子は多くが楕円形で,大きさ14~31×8~14μm.
国内ではほぼ22種のアザミ類にうどんこ病が発生し,内,16種には(1)が,12種には(2)と,以前 Erysiphe aquilegiae de Candolle かE.pisi de Candolle とされたこともある(3)が発生し,チシマアザミ,トネアザミ,ナンブアザミ,ノハラアザミ,ヤマアザミには3種の菌が記録されている.3 菌の顕微鏡的な違いは分生子の形成状態 (単生か連生),フィブロシン体の有無,閉子のう殻の壁細胞の大きさ,付属糸の形成位置,子のうと子のう胞子の形成数等により容易に判別できる.
なお植物病名データベースでは病原(1)がSphaerotheca fusca(Fries)Blumerとして掲載されている.

伝染:
詳しい伝染経路は追及されていないが,3菌ともに枯死株で越冬した閉子のう殻がアザミ類の生育期に子のう胞子を飛散して一次伝染し,形成した病斑上の分生子で二次的に広がると考えられる.

(2011.10.11 丹田誠之助)

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