2015-07-15 最終更新
病徴:
新梢が短くなり,その発生数も少なく,葉は小さく黄化して,やがて褐変化して枯死,落葉する.しだいに樹勢が弱り,衰弱病の根は褐色,黒変して腐敗し,その数は少ない.これらの罹病根から微生物分離するとCylindrocarpon属菌,Fusarium属菌,Pythium属菌,Rhizoctonia属菌,およびRosellinia属菌が分離されたとの報告がある.
病原:
(1)Cylindrocarpon destructans(Zinssmeister)Scholten
(2)Fusarium oxysporum Schlechtendahl
(3)Pythium sp.
(4)Rhizoctonia solani Kühn
(5)Rosellinia necatrix Prillieux
上記のように,数多くの病原菌が分離され病原性を示している.個々の病原菌の菌学的性質等については図鑑等で調べてもらうこととしたい.これらの病原菌のうち,(1)から(4)の病原菌の病原力は弱く,到底和歌山のウメ園で被害をもたらした程の強烈な病原力はない.しかし,田辺市で採取したRosellinia necatrixはきわめて強力な病原力を示す.また,その上,田辺市の秋津川,長野,上芳養地区で採取した菌は採取場所によって異なる菌学的特徴がみられた.1)系統によって菌叢生育温度に差があり,2)細胞質和合性も各置床菌糸間で境界線が形成され,菌系が異なっていた.さらに,3)各菌系でメラニン合成の程度が異なっていた.
伝染:
和歌山県ウメ園での壊滅的な被害は田辺ウメ対策協議会の統計によると平成3年に5,120本であった被害樹は年々増加し続け,平成16年には累計で118,180本を数え,壊滅的な被害となり廃園が続出した.果樹栽培でこのような被害をもたらす病原菌は病原力が強く,多犯性の白紋羽病菌しか考えられない.
全国の果樹栽培地で産地崩壊をもたらしてきた病原菌はそのほとんどが本菌によるものである.
現地の人々のほとんどが「ヤマザクラが枯れた2,3年後」からウメが枯れだすとの話をよく耳にした.この現象の整合性を確めようとヤマザクラの枯死樹の根を調査したところ,罹病根に白い菌糸束がみられ,土壌中で長く生存できる子のう殻が形成されていた.本白紋羽病菌はウメに病原性を有し,その病原力はウメ白紋羽病菌よりも強かった.これらの事実から考えると本病の伝染源はこの子のう殻に起因する可能性がきわめて高い.また,土壌中では感染した根が腐り,病原菌の菌糸塊は菌糸生長して,即,若い植物根に侵入,感染して短期間で発根を阻害して樹を枯死させる.
なお,これらの研究成果は植物病理学の見地から研究され,学会等で発表されたものを取り上げた.
(2011.12.7 小林紀彦)