2015-07-15 最終更新
病徴:
花色が赤~紫色の品種では,着色しはじめた蕾に楕円形~紡錘形の退色斑を形成する.この斑紋は開花にともなって不鮮明になることが多い.また,品種によっては,増色型の条斑が生じることがあり,この場合は開花後も識別が可能である.白や黄色の品種の多くは花に病徴を示さない.一方,葉では,花色を問わず葉脈に沿って楕円形~紡錘形の淡い退緑斑が生じ,これが集まって淡いモザイク症状を呈する.また,茎葉黄化開始期(開花後20~40日)の葉には,明瞭な退緑斑や紫斑を生じる.
病原:
チューリップ微斑モザイクウイルス Tulip mild mottle mosaic virus(TMMMV)
本ウイルスは幅4~8nmの複雑に屈曲したひも状の粒子で,Rhabdovirusのヌクレオキャプシドに類似した形状を示す.カンキツやレタス,ラナンキュラスなどからも類似のウイルスが分離されており,これらをまとめて新しくOphiovirus属が設立されている.Ophiovirusは3~4つの分節したゲノムを有するマイナス鎖RNAウイルスで,カンキツのソローシス病やレタスビッグベイン病など経済的にも大きな被害を与える重要種が属している.レタスビッグベイン病の病原であるMirafiori lettuce big-vein virusと本ウイルスは血清学的に近縁な関係にある.汁液接種により,数種検定植物に局部感染するが,チューリップ以外の植物における本ウイルスの発生の報告はない.耐熱性は40~45℃,耐保存性は1~2時間(20℃),耐希釈性は100~500倍であり,非常に不安定な成分である.
伝染:
病原ウイルスは球根で伝染するとともに,ツボカビの一種であるOlpidium virulentusによって媒介される.O.virulentusは国内の耕地土壌に広く生息し,ウイルス感染球根を植えつけることにより,根に寄生した媒介菌がウイルスを保毒し,長期にわたり圃場が汚染される.ウイルス感染球根の移動・流通に伴い,広域的に汚染圃場が拡大する.また,農機具などによる汚染土壌の移動も重要な伝染経路となっている.なお,接触伝染は確認されていない.
(2011.12.2 守川俊幸)