2015-07-15 最終更新
(1)AlMVによるアルストロメリアウイルス病
病徴:
病徴の現れ方は品種によって変化がみられる.はじめ葉脈間に小さな退緑斑点を生じ,のちしだいに葉脈間を伸び,また隣接のものと癒合して長形となり,さらに葉脈を越えた退緑斑とも接触して大きな退黄緑斑となる.病斑が古くなると中心に淡褐色のえ死斑を生じる.また株全体の発育が衰える.AlMVとAlSVとの重複感染がしばしば見られるので,病徴からウイルスの種類を判別するには注意が必要である.
病原:
アルストロメリアモザイクウイルス Alstroemeria mosaic virus(AlMV)
ウイルス粒子は750 ×12~13 nmのひも状,不活化温度60~65℃(10分),希釈限界10-4~10-5,A260/A280=1.30,外被タンパク質の分子量32,000dである.
伝染:
汁液伝染が容易である.アブラムシによって非永続的に伝搬される.
(2)ArMVによるアルストロメリアウイルス病
病徴:
葉脈間に円形または長楕円形の退緑色斑を生じるモザイク病となる.この病斑はAlMVによる病斑に類似しているが,やや軽く,えそ斑は見られない.
病原:
アラビスモザイクウイルス Arabis mosaic virus(ArMV)
ウイルス粒子は径29nmの球状,不活化温度55~60℃(10分),希釈限界10-3~10-4,
保存限度1~2週間,外被タンパク質の分子量は約53,000dである.
伝染:
汁液伝染は容易である.アブラムシでは伝染されないが,土壌中の線虫により永続的に伝播される.
(3)CMVによるアルストロメリアウイルス病
病徴:
アルストロメリアにおけるCMVはあまり知られていないが,ほかのウイルスと重複感染している場合が多く,したがってCMV単独による病徴は明確に示されていない.しかしCMVが単独で検出された株で病徴が軽かったという記載はある.また北海道では葉に白色条斑を現した株からCMVが検出されている.
病原:
キュウリモザイクウイルス Cucumber mosaic virus(CMV).
ウイルス粒子は径29~30 nmの球状である.不活化温度60~70℃(10分),希釈限界10-4~10-5,保存限度4~8日,宿主範囲は広い.
伝染:
汁液伝染は容易である.アブラムシによって非永続的に伝搬される.
(4) LSVによるアルストロメリアウイルス病
病徴:
葉の病徴は軽いが,葉脈間に薄い退色斑点または長く伸びた退緑色斑を生じるモザイク斑となる.病斑は葉を透かすなど注意してみないと分かりにくいが,株の生育はやや劣る.
病原:
ユリ潜在ウイルス Lily symptomless virus(LSV)
ウイルス粒子は650×13nmのひも状である.
伝染:
汁液伝染が容易である.アブラムシによって非永続的に伝搬される.
(5) TSWVによるアルストロメリアウイルス病
病徴:
病徴は最初葉に径5~15mm大の円形または楕円形をした退緑色斑点を生じ,しだいに拡大癒合しながら葉脈に沿って長く伸びるやや大きい退色病斑となる.それらの退緑色にはえそ斑点あるいはえそ条斑を生じるのが特徴である.病勢が進むと葉からはじまったえそ斑は葉柄に達し,さらに茎にまで進展する.そのような症状が株の上部に発生するとえそを生じた茎の部分から倒れ易く,また病株全体の生育が悪い.また葉や花が変形するものがある.これらの病徴は品種によって変化が見られる.
病原:
トマト黄化えそウイルス Tomato spotted wilt virus(TSWV)
ウイルス粒子は径80 nmの球状である.
伝染:
汁液伝染が容易である.アザミウマによって媒介される.TSWVは宿主範囲が広く,トマト,ダリア,キク,タバコなどに発生しているので,これらが伝染源になっている可能性が高い.
(6)そのほかの病原によるアルストロメリアウイルス病
●AlMV抗血清と反応しないPotyvirus群に属するウイルス(AlVX)
AlVXはORFsのヌクレオチド配列からPotyvirus群に属するウイルスとして命名されている.生物学的諸性質は明らかでない.
●外国でアルストロメリアの葉に柔らかい退色条斑,花に柔らかい斑入りを発生する病原
Alstroemeria streak virus(Potyvirus AlSV,粒子780x12nm)が報告されている.このAlSVはAlMVと重複感染している場合が多い.さらにAlMVやAlSVと異なる第3のPotyvirusの存在も記載されている.わが国でも岡山県および千葉県でAlMV抗血清と反応しないPotyvirusが見出だされており,このウイルスがAlSVか第3のPotyvirusであるか否かを同定する必要がある.
●TMV
TMVは市販のアルストロメリアから検出されている.そのほかアルストロメリアにはいろいろな病徴のウイルス病が多く発生しており,また被害も多いので,さらに調査検定する必要がある.
(2011.11.30 井上成信)